Fly Me To The Moon

  • Feb 01, 2016
  • Pankie Koba

あまりにも有名なスタンダードナンバーですね。曲の構成もA、A’だけで、メロディーもコード進行も至ってシンプルなので一度聴いたら簡単に口ずさめる曲です。ただ、この曲はヒットするまでにたいへんな時間がかかりました。

1954年に作曲家・作詞家のバート・ハワードによって作られ、その年ニューヨークのキャバレー「Blue Angel」でフェリシア・サンダースが歌ったのが初演なのですが、同年レコードとして初めてリリースされたのはケイ・バラードが歌ったものでした。しかし当時はまったく売れませんでした。タイトルは「In Other Words」(言い換えると)で、曲調も3拍子、現在演奏されている多くのアレンジとは全く違う感じの曲でした。

その後1956年に、ポーシャ・ネルソンのアルバムにも収録されましたがパッとせず、同年ジョニー・マティスがこの曲をリリースした時初めて「Fly Me To The Moon」というタイトルになりました。ですがほとんどノーリズムのあまりにゆったりとした曲だったのでやはりヒットしませんでした。当時サンフランシスコ州立大学に通う大学生だったマティスはその甘いマスクと抜群の歌唱力でアルバイト先のクラブでスカウトされ、その直後に出した曲です。自分の歌の上手さを前面にアピールする感じと抒情的すぎるのがちょっと押しつけがましい感じになっています(個人的感想ですが)。

1962年。当時流行し始めていたボサ・ノヴァのスタイルにアレンジしたのが作曲家・編曲家のジョー・ハーネルでした。インストゥルメンタルのナンバーでしたが、これが年末から翌年にかけてヒットしました。

1962年度のグラミー賞最優秀ダンス楽団演奏賞を受賞しています。ただ、1961年5月25日にケネディ大統領が表明演説した時から始まったアポロ計画(NASAによる人類初の月への有人宇宙飛行計画)の話題に便乗した宣伝活動による部分も大きかったということです。

そして1964年。何と言っても極めつけはやはりフランク・シナトラでしょう。前述のジョニー・マティスと聴き比べてほしいのですがまったく肩に力が入っていない、押しつけがましくない大人の歌い方です。4ビートのミディアム・テンポで軽快な感じを演出しています。

この曲は、「私を月に飛んで行かせて。そして星たちの間で遊ばせて。木星や火星の春を見せて。つまりそれは私の手を握ってということ。そしてやさしくキスしてということ。」という無邪気で男を困らせる女心を歌ったものです。ですから男性が歌うなら若いマティスよりお金も権力も持っているシナトラの方がしっくりきます(異論はたくさんあると思いますが)。

同時期にナット・キング・コールもリリースしました。そして1965年にはトニー・ベネットもリリースしました。ふたりともシナトラとは違う誠実な歌い方をしています。ヴァースの部分から歌う二人のバージョンも絶品です。最後の「In Other Words,Please Be True,In Other Words I Love You」という部分は、この二人の方が愛らしく誠実な女性をイメージできていいかもしれません。シナトラが歌うと、本心とは裏腹な勝気な女性しかイメージできないので。

余談ですがホイチョイ・プロダクションズの「私をスキーに連れてって」(1987年)のモチーフはこの歌にあるのではと勝手に思っています。

個人的にはアストラット・ジルベルトが拙い英語で歌うボサ・ノヴァのバージョンも大好きです。まだまだ多くの歌手が歌っていますが宇多田ヒカルや椎名林檎や八代亜紀等の日本人歌手も歌ってるし、テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のエンディング・テーマと2000年に公開された映画「スペース・カウボーイ」のエンディングでも使われたので年齢問わずほとんどの方が知っている名曲だと思います。

ラストの場面で月面から地球を眺めるトミー・リー・ジョーンズの映像に、シナトラの歌がカット・インされるところが粋ですね。

またまた余談ですが、シナトラ・バージョンのカセット・テープがアポロ10号・11号に積まれ、人類が月に持ち込んだ最初の曲になりました。
1969年、10号・11号の船内でこの曲を流していたというエピソードもあります。

今でもシナトラが歌うこの曲を聴くと、中学2年生の夏、初めて月面着陸に成功した11号のアームストロング船長が月面に星条旗を立てた映像や、カンガルージャンプをしているオルドリン操縦士の映像をテレビに釘付けになって見ていたことを思い出します。

幼少時代、うさぎが餅つきをしていたり、かぐや姫が住んでいると思っていた月に人類が行けるなんて信じられませんでした。

それも地球から38万Kmも離れた月に。

そして遂に一般人が月旅行に行ける時代がもうそこまでやってきています。アメリカの宇宙旅行会社、スペース・アドベンチャーズが販売している2017年予定の月周回軌道旅行は残りあと1席で、なんと1億ドルから1億5000万ドルもしますが・・・きっと買う人がいるんでしょうね。

もう1席はすでに買われているんですから。噂だと、ジェームス・キャメロン監督だとか。

「Fly Me To The Moon」と言う女性の我儘を本当にきいてあげるお金持ちの男性がいて、ハネムーンやフルムーン旅行に二人で月に行くという洒落が現実になり、船内ではフランク・シナトラの歌う「Fly Me To The Moon」が流れるという映画みたいな話がきっと現実になるんでしょう。

ただ月や火星への移住計画もありますが、神聖な場所を侵すような気がしてならないのは僕だけではないはずです。

未来の子供達は月にうさぎやかぐや姫がいるとは思わなくなるんでしょうね。日本の古代信仰である八百万の神の化身がふたつ無くなる気がします。

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