失われた世界
古いライカは
濡れたあなたの記憶とともに
カラカスの人波に消えた
汗の匂いにうんざりして
残った荷物と僕は街を出た
ロスト・ワールド
失われた世界と人のいう
ここから何が見えるだろう
もうあの息苦しさはない
いい旅をと誰かがささやいている

この美しい世界のために。
おめでとう
両手を開いたその姿は
まるで二人を祝福するかのよう
幸せを守るには代償が必要なんだと
世界も僕も気づいたあの日
コルコバードのこの丘で僕も祈ろう
この美しい世界のために
僕に寄り添うあなたのために

白い帰り道
銀色の飛行機の窓から
見下ろす白い街
何度拭いても見えなくなる
冷たいガラス窓
クリスマスに帰ると書いた
手紙は届いてるかな
雪の下に埋もれた時間は
取り戻すことができるかな
鞄の中にはホワイトハニー
いつもパンケーキ焦がして笑いあった
あたたかなあの場所へ

旅よさらば
僕は夏の島 君は冬の街
僕だけが旅をしていると思っていた
僕だけが夢を見ていると思っていた
いつも一緒にいたんだね
気づかずに旅してたなんて
ひとりの旅はいつか終わる
ふたりの旅を始めるために

アカカの森
恥の多い生涯を送ってきました。
古老のような大木の前で
たくさんの後悔が昔読んだ小説の
フレーズを借りて浮かんできます。
生命の力にあふれた緑の森は
ちっぽけな僕にもまだ少しだけ
やり直すチカラが残されていると
教えてくれているようです。
僕はもう一度だけ旅立ちの朝の
海を見たいと思いました。

ワンサイドゲーム
紫の煙にかすむ淡い電球の光
ときおり響く硬質なショットの音
デニムのショートパンツからすらりと伸びた脚
細い指がセクシーなブリッジをつくる
8番の黒いボールを見つめて
ちょっと困ったように眉を寄せる横顔
キミの指の間をすりぬけたキューは
ボールを左奥のポケットに落とし
ボクの指の間のマルボロは
長く伸びた灰をテーブルに落とす
振り向きもしない彼女に心を奪われながら
まるで時間が止まったかのように更けていく秋の夜

夏の名残
空に虹を描く雨 海に歌を運ぶ風
夏が色を変えてゆく
僕はハンモックで揺れながら
古びたウクレレをつま弾いている
沈む夕陽が 砂の上に長い影を曳く
ヤシの葉音が ゆるやかにリズムを刻む
あの日届けたかった歌は
夕暮れの潮騒にかき消されてゆく
いまでも残照の中にキミを探す僕がいる

帰れない夏の日
いい波が来そうなんだ。
風が吹いて、あなたの濡れた髪から
日焼けした肩にしずくを落とす。
夕陽は海をオレンジ色に染めているのに
波を待ち続けるあなた。
持ってきたコーヒーはとっくに冷めているのに
あなたを待ち続ける私。
はしゃぐあなたの頬にそっと触れた口づけは
ちょっぴりしょっぱくて少しだけせつなくなる。
波打ち際に暮れてゆく 帰れない夏の日。

夜が明けるまで。
行先も決めずに走り続けていた。
海沿いのダイナーにキミがいた。
恋もお気に入りのピアスも
この店でなくして泣いていたね。
差し出したセーラムを思い切り吸い込んで
ナプキンの黒いしみがまた増えて
涙の向こうに見た笑顔に一目ぼれ。
夜が明けるまでこの道を飛ばせば
思い出も涙も、星になるかな。

キミの声を忘れない。
赤いシートの奥から3番目、
そこがいつものキミの指定席。
お気に入りのレモンパイをほおばりながら、
とりとめのないおしゃべりで笑いあった。
このダイナーで出会って恋をして、
気が付くといつも夜は更けていた。
キミを送ったあとの夜道のせつなさと
あの頃のキミの声を、今も僕は忘れない。

遠出しようか。
シボレーのテールフィンが
4月の光を受けてキラキラと輝いている。
遮るもののない未来が
キミのちょっと気取ったサングラスに
映っては消えていく。
この道がどこまでも続くようにと。
今この時がいつまでも続くようにと。
ラジオからはボブ・ディラン。
あの丘の向こうへ。あの波の向こうへ。
風に吹かれて、遠出、してみようか。

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