Paper Moon

  • Sep 07, 2015
  • Pankie Koba

映画「ペーパームーン」をご存じだと思います。アメリカの金融大恐慌時代を舞台にした聖書を売る詐欺師と、母親を亡くした孤児が心の絆を深めていくロード・ムービーです。ライアン・オニールとテータム・オニールの親子が演じ、1973年テータム・オニールが史上最年少で助演女優賞を受賞した映画です。この映画の主題歌「It’s Only A Paper Moon」は1932年に作られ、1933年の舞台と映画「テイク・ア・チャンス」で初めて使われました。大恐慌時代の真っただ中です。

 この歌は、アメリカ人の心の郷愁であった「ペーパームーン」をモチーフにして作られました。まだカメラを持ってる人がほとんどいなかった1900年初頭のアメリカでは厚紙や板(厚紙では無理なので板だと思いますが)で作られた三日月型のお月様(月の女神風の横顔がよく描かれてます)に家族や夫婦、恋人同士で腰かけて写真を撮ることが流行しました。昔のアメリカ映画の田舎の遊園地によく出てくる光景です。この「ぺーパームーン」に腰かけて記念写真を撮ることは、「家族みんなが幸せでいたい」、「子供に幸せになってほしい」、「幸せな結婚をしたい」という庶民のささやかな夢を叶えるシンボルとなっていきました。

 このルーツは、映画草創期に数多くのファンタジー映画を製作したジュージュ・メリエスの代表作「月世界旅行」(1902年)のシーンで、三日月に乗った月の女神と顔のある月のイメージが合成されたものだと言われています。この映画は大成功し、多くのアメリカ人に月に腰かけると夢が叶うという流行を生みました。

 そして第一次世界大戦後の好景気の中、世界一を誇示するアメリカ最大のシンボルとして世界一高いクライスラービルが1928年に着工し、今度はそれを抜く 高さのエンパイア・ステート・ビルディングが1929年に着工されました。しかしその直後に起こった金融大恐慌により、完成後約10年間エンパイア・ス テート・ビルのオフィス部分はガラガラだったそうでエンプティー・ステート・ビルと揶揄されたそうです。

 エンパイア・ステート・ビルPRを目的に製作された映画「キングコング」(1933年製作)をもってしてもテナントは入らず大不況には勝てませんでしたが、おかげで不朽の名画が誕生しました。

 庶民のシンボル「ペーパームーン」とマネーと権力のシンボルである「クライスラービル」、「エンパイア・ステート・ビル」がヨーロッパからもたらされた同じアール・ヌーヴォ、アール・デコの流れから生まれたのはとても皮肉な話です。

 そんな殺伐とした大不況時代に多くのアメリカ人が

「It’s Only A Paper Moon」で心のよりどころを取り戻したのです。その歌詞には「信じていれば願い事が本当のことになるんだ。ただの紙のお月様だって愛があれば本物に見える。お金持ちのように豪華にすることなんかないんだよ。」

という庶民の気持ちが込められています。

 お金や権力や地位ではない、人生で本当に大切なものをこの歌は教えてくれます。

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