魔女の下僕と魔王のツノ
オススメの漫画の話でもしよう。
「通称・魔女ツノ」と呼ばれる、月刊少年ガンガンで連載されている、もち先生の作品である。
あらすじは、薬草の魔女のベティとその下僕であるアルセニオは師である大魔女のビビアンの難病治療のためにアルセニオ単身で魔王城に踏み込み、そこでレイという少女出会い、彼女とその仲間と共に魔王からツノを手に入れようと奮闘する物語である。
あらすじだけ読むとごく一般的王道ファンタジーだが、読んでみると他宗教との確執、異種族差別、同性愛とかなり奥深いものが見えてくる。
一見重そうなテーマだが、作者の描き方が巧妙でコミカルに表現されていて笑いながらに考えさせられる。
この作者のギャグは非常に巧みだ。
魔法というファンタジー要素により、男から女へ、女から男へと性別の転換が自在に行われ、異性の視点からみる友人に対する気持ちや、自身が持っている性の認識など現実では考えることもない視点を考えさせるところや、キャラクターたちのギャグシーン、魔法を使ったバトルシーンも見所だ。
さらに、この作品にはアルセニオの少年時代を描いたスピンオフ作品も存在する。
この作品の存在は魔女ツノで描かれていた内容を補強する重大な作品だ。
登場人物のキャラが皆濃く、オススメのキャラクターばかりだ。
下僕心溢れる火を操る魔物になった青年・アルセニオとその主人である幼魔女のベティとの切れない絆。
魔法によって少年から少女に変化した狩猟民族のレイと、アルセニオとの性別を超えた恋心。
病弱な体を治すために魔女の魔法を習得した極北の魔女・エリックとレイの幼馴染にして狩猟民族最強の男ロイドとの師弟、そして性別に囚われない恋愛。
魔物となった親友を救うために親友を斬り、親友を守ることを誓った騎士・サウロと親友のアルセニオの友情を超えた気持ち。
様々なキャラクター達の関係性も目が離せないところだ。
スピンオフでは人間から魔物になったきっかけが描かれており、前とは違う自分になり戸惑うアルセニオの心情とサウロの親友を魔物に殺されたと思っている怒りのすれ違いなど切なくなる話だが、本編での和解シーンを読んだ時より引き込まれた。
2人の友情がどれだけ固く確かなものだったかがよくわかる。
魔物サイドもキャラが濃く、本編のギャグシーンからシリアスなシーンを様々に彩っている。
人間には人間の心。
魔物には魔物の心。
男には男の心。
女には女の心。
どこからどこまでがどの心なんて測れない。
ありもしない境界線を探して、無理矢理、線を引いて溝を作っていた。
この溝を埋めたいと言った、アルセニオの言葉の重さ。
全部になって初めてわかることがあるように、誰も想像したことがないものは理解ができない。
理解しようとする気持ちの大切さを気づかせてくれる、重たくも優しく勇気ある言葉だ。
他者に優しくすることの難しさを教えてくれる作品でオススメです。